鴻海はシャープのホワイトナイトか

 シャープの再建を巡り、官民ファンドの産業革新機構と、鴻海(ホンハイ)精密工業との支援競合を経て、鴻海との合意があった後、鴻海から値切り交渉が勃発するという異常事態が発生しましたが、出資は約1千億円減の3888億円で落着し最終調印されました。
 いろいろな評価がなされていますが、ひとつは、シャープ経営陣の無能な交渉で鴻海に上手く買いたたかれたというもの。二つ目は、シャープ経営陣にとっては、産業革新機構に比べ、保身が可能な鴻海案がホワイトナイトの様に見えたと言うもの。三つ目は、少し論点は変わりますが、鴻海の脱中国の世界戦略に呑み込まれたと言うもの。
 そもそもが、事実上経営破たんし、支援を仰がねばならなくなったのですから、経営陣が無能であったことは、事実が証明しているのですが、この期に及んでも、良きパートナーを得て云々と、今後も経営に携わる様なのんきな発言をしているシャープの経営陣には、これでは破綻して当然と開いた口が塞がりません!




 鴻海に翻弄されたシャープ経営陣の無能さを指摘する、多くの記事の代表的なものを一つ。
 
シャープ、鴻海に翻弄された1カ月 - 産経WEST 2016.4.2 21:28

 バラ色にみえた台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープ支援策は、交渉終盤の1カ月あまりで色あせた。官民ファンド、産業革新機構とのシャープ争奪戦を制した鴻海は、次々と条件変更を要求。出資額を約1千億円引き下げ、シャープ解体の選択肢も残した。シャープの高橋興三社長は「出資金を下げるなど理屈に合わないようなことがあれば提携しない」と強気だったが、押し切られた。

 鴻海は当初、4890億円の出資を提案していた。3千億円規模を提示した革新機構に勝つためだ。両者の競争はシャープを優位な立場に祭り上げ、高橋氏に「『(金額を)つり上げたろか』という気持ちはまったくない」と釈明させるほどだった。
 
流れを変えたのが、シャープが取引先と訴訟になり負けた場合などに発生し得る「偶発債務」の存在だった。シャープが鴻海側に100項目、計3千億円規模のリストを提出したのは2月24日。鴻海の郭台銘会長は不信感をあらわにしたという。
 ただ
高橋氏はリスト提出を知らされていなかったといい、「シャープ内の革新機構支持者が鴻海案をつぶすために仕掛けたとの憶測が出た」(関係者)。
 同25日、シャープは買収受け入れを決めたが、鴻海は保留。高橋氏は翌26日、郭氏が滞在していた中国に飛び、謝罪した。

大半は問題なし
 
偶発債務の存在を重くみた鴻海は調査チームをシャープに派遣し、奈良工場(奈良県大和郡山市)、八尾工場(大阪府八尾市)などを“捜索”。リストの大半は問題がなく規模は数百億円、との見方で両社は一致したが、鴻海はシャープ、主力取引銀行のみずほ銀と三菱東京UFJ銀への圧力を一気に高めた
 3月14日から16日にかけて高橋氏と主力行の担当者は台北の鴻海本社で郭氏らと会談。
郭氏は、出資額を最大で2千億円減らすこと、3千億円の新規融資などを求めた
 
交渉の末、主力行は新規融資枠の設定などに応じ、出資は約1千億円減の3888億円で落ち着いた。「台湾人に言わせれば縁起のよい三発発発(3888)だ」。鴻海の戴正呉副総裁は3月末の台湾での記者会見で、軽口をたたいてみせた。

社内に不信感
 シャープ内には「鴻海は決めたことを翌日になって全部ひっくり返してくる」(幹部)との不信感が植え付けられたという。
 
合意内容をみると、シャープ側に何らかの問題が発生して出資が実現しなかった場合、鴻海は液晶や次世代型の有機ELなどのディスプレー事業を「公正な価格で購入できる」との条項がある。出資の期日である10月までにシャープがつまずいた、と鴻海が判断すればうま味のある部分だけを手に入れられるわけだ。
 ただ4月2日の会見で郭氏は「実際に破談になることはない。条項は万一のため」と強調した。
 一方で、各事業の撤退・売却を迫るような「議決権の行使、その他の影響力の行使は行わない」とする記述は消えている。

 
鴻海が選ばれたのは、革新機構と違ってシャープ解体を否定し、不振の太陽光電池事業を例外として「一体的な運営を維持する」と約束したからだが、覆された格好だ。
 
シャープの技術を日本国内に保持する、との合意も後退。対象を「技術」から「ハイテク技術」に修正した。どの技術を日本の外に持ち出すかは鴻海次第だ。

 ただ「経営の独立性を維持・尊重する」との文言は残った。シャープ経営陣の1人は言う。「一緒にやる以上、信頼するしかない」。


 「経営の独立性を維持・尊重するとの文言は残った」と言いますが、「鴻海は議決権の66%を握る」「鴻海は取締役の最大3分の2の選定が可能」となっている(4/3 読売朝刊)のですから、鴻海の支配下に入ったことは紛れもない事実ですね。
 合意後に、社長がしらない「偶発債務」の存在が明らかになり、大半は問題がなく規模は数百億円というのに、鴻海につけ込まれ、出資額を最大で2千億円減らすこと、3千億円の新規融資などを要求されるとは、シャープの経営陣が、無能なサラリーマン経営者であることの証です!
 結果、主力行は新規融資枠の設定などに応じ、出資は約1千億円減じられてしまい、3千億円規模を提示していた産業革新機構の支援額に近づいてしまいました。
 それでも、鴻海の傘下に入る選択を飲んだのは、鴻海がシャープの現経営陣の退任を求めなかったことに尽きると言われてもしかたのない、経営陣のふがいなさです。
 鴻海はシャープ経営陣にとっては、ホワイトナイトと指摘する記事は以下。
 
台湾の軍門に下ったシャープ 鴻海との「信義」は守られるか 北沢 栄

 僕は以前からシャープは台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業に決めるに違いないと考えていた。鴻海のスキームは、シャープの液晶事業の技術をグループ内で生かし、再建のための投資を惜しみなくやるということ。液晶の分離など「解体」を視野に入れた産業革新機構のスキームとは、最初から非常に差があった

 2012年、鴻海がシャープ本体に出資する契約を結びながら破棄した経緯がありシャープの鴻海に対する不信感はいまも根強かったと思う。しかし今回、鴻海が契約違反した場合の違約金として1千億円をボーンと出した。「もう真剣に今回はやるぞ。もう約束違反しない」と誠意を見せ、現ナマまで出した。
資金繰りに困るシャープは、もう相手が決まらないとやばいのは分かっているから条件を呑んだ
 鴻海は、シャープの主力取引銀行の三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行に対し、1500億円の債務を株式に振り替え、保有する優先株2千億円を実質放棄させ、最大3500億円の金融支援をするという。革新機構ではこうはいかない。大体、
革新機構がすることには、なぜ民間の話に国民の税金使うのかという批判と説明責任がつきまとう

 
鴻海の買収が成功したもう一つの大きな理由は、鴻海がシャープの現経営陣の退任を求めなかったことだ。革新機構は「経営陣総入れ替えしますよ」「シャープは失敗したから国が面倒みます」って、これでは駄目だと思った。革新機構は官民ファンドといっても実質は国策ファンド。出資の9割は国つまり税金であり、無茶な資金は出せないものの、初めから経営陣交代という話では普通はまず乗ってこない。
 結局、
革新機構のスキームの狙いというのはシャープの救済ではない家電全体、特に東芝の救済。沈む日本の家電産業を強くするには、企業再編のためのひとつのツールというか、足がかりにシャープを使う。シャープの技術を生かして、ソニーのいいとこも使って、切り取ってジグゾーパズルじゃないけど組み立てようというのが革新機構の案。不正会計事件を起こした東芝の救済が大きな動機になっている。東芝は内外に従業員が20万人もいる、シャープとは桁違いに大きく歴史ある企業だからだ。
 ただ、技術的に優れるシャープは、時に「一本足打法」で勝利してきた。サムスン、LGのような韓国資本に一気に形勢逆転されてはしまったが。鴻海にとって優秀な技術者の流出を考えると買収は早い方がいい。違約金1千億円を出せる企業はなかなかない。意外と知られていないが、鴻海は電子機器を活用した工作機械が強い。鴻海で従業員自殺が相次いだ件を調べたときに知ったが、その頃から日本の工作機械を買って研究していたようだ。高度の工作機械は日本やドイツが強いが、汎用の中国向けなどは世界トップクラス。シャープのブランドも生きるだろう。

 鴻海との信義は守られるのだろうか。買収されることを選んだシャープに不安は残る。当面、違約金という形の保証はあるものの、それは金という形での約束でしかない。
シャープを必要とし現経営陣に任せるとした鴻海が、その先実際にどうやっていくのかは見えてこない
(聞き手・iRONNA編集部、溝川好男)

 液晶事業の分離解体と、経営陣総入れ替えを迫っていた、革新機構に対し、当初は支援額も大きく上回り、しかも経営陣の退陣もないと言われれば、経営陣には、燦然と輝くホワイトナイトに見えたのはしかたのない事かもしれません。しかし、記事で北沢氏が「シャープを必要とし現経営陣に任せるとした鴻海が、その先実際にどうやっていくのかは見えてこない。」と遠回しに述べておられますが、出資比率でも役員数でも過半数を抑えた鴻海が、無能な現経営陣を必要としないことは、サラリーマン経験のある者なら誰にでも解る常識ですね。

 少し論点がズレる話としたのは、シャープの国産技術が、中国に洩れるとの危惧説。かなり多くの著名な方々が口をそろえておられます。
 しかし、鴻海は主力工場をインドに移す計画を進めていて、脱中国の方向にあります。これまでは、主力工場が中国にあったのですから、中国政府に接近する姿勢を示したのは当然ですが、脱中国を決意したいま、どこまで中国に貢ぐのか、むしろ今後は中国で勃興する企業と競合になるので、いかがなものかと疑っていたのですが、まさに同様の指摘を、上念氏が書いておられました。
 
シャープ買収の鴻海こそが支那共産党と戦っている 上念司

 シャープが鴻海に買収された。浅薄な陰謀論を語る人たちが、「軍事にも転用できる技術が支那に盗まれる!」と大騒ぎしているようだ。まったくおめでたいとしか言いようがない。商売の世界がそれほど単純だったら楽でいいが、現実はまったく違う。

 私はシャープ製品を愛用してきた。初めて買ったウィンドウズPCはメビウスだったし、液晶テレビもアクオスを愛用していた。さらに、今のスマホの技術を先取り(?)していたザウルスにも相当なお金をつぎ込んだ。彼らの描く未来の大きな絵を信じて。
 しかし、私の期待はことごとく裏切られた。
新しい製品をぶち上げるときのコンセプトは素晴らしい。しかし、それが毎回と言っていいほど長続きしない。だからこそ、客はシャープを見放した。
 
結論から言えば、今回の鴻海による買収はシャープの自業自得である。そこにたまたま鴻海が現れた。それが現実だ。日本の家電メーカーはかつて優秀だったかもしれない。しかし、創業者が一線を退き、サラリーマン経営者が跋扈するようになって何かが変わってしまった。
 そもそも、戦後世界を席巻した
日本の家電メーカーは、当時はみんなベンチャー企業だった。しかし、会社の経営が安定し、サラリーマン経営者が台頭すると、日本の家電メーカーの既得権の上に胡坐をかくようになった。彼らはリスクを取らない安全運転に終始する。さらに、不幸にしてこの時期に政府、日銀の失政によるデフレが重なってしまった。その結果、日本の家電メーカーの凋落は顕著になった。
 例えば、アメリカのアイロボット社が作った
お掃除ロボット「ルンバ」。なぜこの製品は最初に日本のメーカーから発売されなかったのか?パナソニックでは、とっくの昔に試作品が作られていたそうだ。ところが、「掃除ロボットが仏壇にぶつかり、ろうそくが倒れ、火事になる」とか、「階段から落下し、下にいる人にあたる」とか、「よちよち歩きの赤ちゃんの歩行を邪魔し転倒させる」といった小役人的な発想でこの企画は潰されてしまった。
 1980年代にウォークマンで世界を席巻した
ソニーが、どうしてiPodのような製品を作れなかったのだろうか? 当時の経営者にネットがわかる人が一人もいなかったからだ。そして、ソニーはいま保険でしか利益を上げられない金融会社に成り下がった。
 どの家電メーカーも、創業者が持っていたダイナミズムは、高学歴社員たちによって去勢されてしまった。彼らは保身のために安全運転を繰り返す。しかし、それは危険を避けているようで、却ってリスクを増大させる愚かな行為だった。シャープが経営不振に陥った理由もまさにこれである。だからこそ、私は今回の鴻海への身売りは自業自得であると考える。

 確かにシャープは大量の特許を出願している。

<中略>

 これだけの
特許を出願していながら、何一つヒット商品を出せなかった会社。それがシャープなのである。いったい何のための特許だったのか?経営が下手くそだと言われても文句は言えまい。実際に、台湾のある電機メーカーの関係者に聞いてみたところ、次のような辛辣な答えが返ってきた。
 「
シャープの液晶パネル技術が世界トップなんて20年前。今は見るべきものがない。辛うじてLTPSがあるが、それも技術トレンドから外れた。鴻海の金を使って、必死に追いつけるかどうかという状態。故に鴻海にとってもシャープの液晶事業はベストパートナーじゃない。ベストはLGD、Samsung D。しかし彼らは鴻海と組む必要がない」

 製品化できない、あるいは製品化しても大して売れなかった特許にいったい何の価値があるのだろうか? しかし、それでも鴻海のトップである郭台銘氏は7000億円もの買値を付けた。
陰謀論者たちは「この金額は支那共産党がシャープの技術を盗むためにつけた値段だ」という。まったく商売が分かっていない。
<中略>

 日経新聞の報道によれば、鴻海は、アップルのiPhoneのような完成品の組み立て自体で利益を出しておらず、むしろ現在の鴻海の稼ぎ額となっているDELLやHPのPCのように、優良顧客の有力製品における設計、製造、アフターサービスなどを丸抱えすることによって利益を生みだしている。シャープを取り込むことで、例えばこれまで鴻海が苦手にしていた白物家電(冷蔵庫、洗濯機など)にも丸抱えサービスを広げることができるようになる。これは大きなチャンスだ。だからこそ、これだけの値段を付けることが正当化されるわけだ。
 もちろん、陰謀論者はそれでも疑うことを辞めないだろう。確かに支那の地方政府と鴻海は一見仲がいいように見える。やっぱり技術を支那共産党に横流しするのではないか?
 しかし、よく考えてみてほしい。台湾人は支那から見れば外国人だ。仲良くしてくれるのは鴻海がオイシイ利権であるうちの話でしかない。工場が拡張して、不動産価値などが上がっているときは蜜月かもしれないが、撤退が始まれば手のひらを返される。
 鴻海は2013年2月にフォックスコン(鴻海精密工業のブランド名)の新規採用凍結と新規投資の延期などを発表した。すると、翌年の2014年の4月から5月にかけてフォックスコン深セン工場で連続自殺事件が発生した。これをきっかけに支那国内で鴻海に対する大々的なネガティブキャンペーンが展開されたのは記憶に新しい。
 その後、
鴻海(フォックスコン)は支那で工場拡張をほとんどしていない。むしろ、撤退を加速し拠点をインドに移している。昨年はその動きが加速し何度もニュースになった。何を隠そう、支那の企業は鴻海にとってライバルなのだ。
 支那共産党は儲かりそうな事業をパクり、巨額設備投資を行って価格競争を仕掛けてくる。その結果、鉄鋼、太陽光パネルなどは過剰生産による大幅な価格の低下を招いた。
鴻海はむしろパクられる側にある。先ほど紹介した日経新聞の記事によれば中小型ディスプレイの分野で、支那共産党の後押しを受けるパクり企業が誕生し、激しい価格競争を仕掛けてきた。だからこそ、この難局を打破し、市場の主導権を握り続けるにはシャープが必要だったのだ。

 商売の世界は単純ではない。目まぐるしく市場環境が変化するエレクトロニクスの分野においてはなおさらだ。単純な陰謀論は確かに分かりやすい。しかし、それは実情をまったく無視した妄想である。そんなものに付き合っていても一円も儲からない。商売の世界は厳しいのだ。

 シャープ買収の鴻海、狙いは有機EL・インド・EV (3ページ目):日経ビジネスオンライン
 鴻海精密工業、インドに2兆円超投資  :日本経済新聞

 市場の成長が鈍化してきた中国。人件費の高騰で製造コストも上昇し、労働争議も増える中国。アップルに、iPhoneに、そして中国に依存しすぎることからの脱却の必要性。そこから、鴻海が目を付けたのがインドであり、EVで、中国に偏重してきた製造の軸足を、次の巨大市場であるインドに移すことにしたのです。そのグローバル戦略のなかで、シャープの必要性が生じたのだと。

 鴻海がシャープを買収する狙いは、この鴻海のグローバル戦略の一環だと言う説に、私は賛同します。
 ソフトバンクが参画している様ですが、本来なら、シャープなり他の日本のメーカーが果たしていただきたいグローバル戦略ではあります。残念ながら、日本のメーカーで、そこまでの戦略が描ける会社がない、または、発想は出来ても、実行に移せる実力のある企業がいないということでしょうか。鴻海が日本の企業を買収して出来ることなのに...。。



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 この花の名前は、ノコンギク

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by yuji_oga | 2016-04-03 22:52 | 企業改革 | Trackback
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